私の会社では、リーダーシップ開発の研修を数種類運営しています。職業柄、他社の人事とよく会話することがありますが、他社に比べても多いリーダーシップ開発の研修数のようです。充実した教育訓練体系を持っている一方で、肝心の運営する人事担当者はAcademicにリーダーシップを学んだメンバーがほとんどおらず、その研修ひとつに対する講師教育しか受けていません。率直に言えば、リーダーシップとは何かと問われても回答できる当社の人事は数えるほどしかいないでしょう。これは他の領域にも当てはまりますが、人事領域の業務を体系的に学習するスキームが世の中にさほど存在しないことが、世界における人事課題であり、特に研修においては人材開発における人事課題だと考えます。

 

この記事では、ビジネススクールで学んだ、人事担当者および組織管理者が知っておくべきリーダーシップ論について記述します。

 

マネージャーとリーダーの違い

マネジメントとリーダーには以下の違いがあります。まずは以下の定義に照らして、ご自身のマネジメント、リーダーとしての振る舞いについて考えていただきたいです。組織の管理者で、組織ミッションの達成に向けたプロセスの整理をしない、または理解していない方はマネジメントではないということが定義から分かります。逆に言えば、専門性が細々としていなくても、組織ミッションの達成のために行動できる人であれば、マネジメント力を発揮することは可能です。

マネジメントとリーダーの定義

マネジメント: 人を通じて、そして人とともに物事を効率的に成し遂げる役割
計画する/リードする/組織化する/コントロールすること。
リーダーシップ:職場やチームの目標を達成させるために、他のメンバーに影響を及ぼすこと。

 

マネージャーは一人しかいませんが、リーダーは誰がなっても良く、目標を達成するためであれば何人いても良いです。メンバーが適切なリーダーシップを発揮して目標達成できるように、個々人に沿ったリーダーシップ開発を行うことが人事担当者の役割です。

 

リーダーは生まれ持っての資質か?

リーダーシップ論の多くの研究によると、リーダーシップは「生まれ持った資質」と「後天的な学習や経験」の両方が影響すると考えられます。私は後天的な学習や経験を通じてリーダーシップを身につけたビジネスパーソンです。

 

先天的にリーダーシップを持っている人もいますが、多くの方は後天的にリーダーシップを身につけると考えられます。例えば、新卒の採用面接で「学生時代に力を入れたことはありますか?」という質問をすることがありますが、決まって学生時代に参画していた組織のリーダー経験を話します。これは、環境が本人のリーダーシップに影響を与えるエピソードです。近しい年齢や学力レベルの学生が集まる環境とは異なり、異なる年代のビジネスパーソンが在籍する組織環境は、リーダーシップに大きな影響を与えると考えます。予測不可能な現代のビジネスシーンだからこそ、「異なる環境でもパフォーマンスを発揮できるリーダーシップ」を身につけることが重要だと考えます。

 

アカデミックな話をすると、リーダーシップ論は

  • 特性論(リーダーだけ)
  • 行動論(リーダー+フォロワー)
  • 状況依存論(リーダー+フォロワー+特定の状況)

と区分できます。

 

ここでいうと、特性論は生まれながらのリーダーシップだという理論なわけですが、数々のリーダーシップ研究は特性論からスタートしています。(ちなみに、リーダーシップの研究は軍隊での研究がもとになっているそうです。)

 

リーダーシップの理論について

ここからは、リーダーシップに関する理論について記述していきます。この章では、自分自身の組織に合ったリーダーシップの理論の大枠を把握していただきたいと思います。また、人事担当者であれば、現在実施しているリーダーシップに関する研究がどの理論に基づいているかという視点でも参考にしていただければと思います。

ただし、リーダーシップ関連の研修については、行動心理学などを基にした研修も多く存在しますので、この資料ではすべてを網羅することは難しいでしょう。その場合、ご自身で当該理論についてさらに深く調べ、知識を深めていただくことをお勧めします。

 

PM理論(Performance-Maintenance Theory)

日本の経営学者である三隅二不二(Nifiji Misumi)氏が提唱したリーダーシップ理論です。リーダーシップの行動には、目標達成を推進する軸と、メンバーを含む組織の機能を維持する軸の2つがあるとされています。PM理論では、リーダーシップの効果を「業績機能(Performance)」と「維持機能(Maintenance)」の2つの側面から分析しています。この2つの軸が高い水準で発揮されるリーダーは、優れたリーダーであると考えられます。

PM理論の概要

業績機能(P: Performance Function)
目標達成、タスクの遂行、業績の向上を重視するリーダーシップの側面です。リーダーはメンバーに対して高い目標を設定し、その達成をサポートする行動を取ります。具体的には、タスクの計画、進捗管理、成果評価などが含まれます。

維持機能(M: Maintenance Function)
メンバーの満足度や士気、組織の調和を重視するリーダーシップの側面です。リーダーはメンバー間の良好な人間関係を維持し、チームの一体感を高める行動を取ります。コミュニケーションの促進やメンバーのサポート、ストレスの軽減などが含まれます。

PM理論のリーダーシップスタイル

PM理論では、リーダーシップのスタイルを以下の4つに分類します:

  • PM型:業績機能と維持機能の両方を高く重視するリーダー。高い目標達成を求めながらも、メンバーの満足度やチームの調和を同時に重視します。
  • Pm型:業績機能を高く重視し、維持機能を低く重視するリーダー。目標達成を最優先とし、メンバーの感情やチームの調和にはあまり関心を持たないタイプです。
  • pM型:業績機能を低く重視し、維持機能を高く重視するリーダー。メンバーの満足度やチームの調和を重視し、目標達成は二の次とするタイプです。
  • pm型:業績機能も維持機能も低く重視するリーダー。目標達成にもメンバーの満足度にもあまり関心を持たず、リーダーシップの効果が低いタイプです。

PM理論の実務的な捕捉

PM理論は、日本の企業文化や組織風土に適したリーダーシップスタイルを見つけるためのフレームワークとして活用されています。組織の状況やメンバーの特性に応じて、リーダーは業績機能と維持機能のバランスを取ることが求められます。

例えば、新しいプロジェクトを立ち上げる際には、目標達成を重視する業績機能が重要になりますが、長期的な組織の安定やメンバーの士気を維持するためには、維持機能も同時に重視する必要があります。現実問題として、Pm型ないしはpM型どちらかに偏ったリーダーが多いため、PMのバランスを取るために、マネージャーなどの上位層も巻き込んでサポートを受ける体制づくりが推奨されます。

 

コンテンジェンシー理論(Contingency Theory)

コンテンジェンシー理論は、組織やリーダーシップの効果が状況に依存するという考えに基づく理論です。この理論は、特定の環境や状況要因がリーダーシップに影響を与えるという考え方で、リーダーシップのスタイルが効果的であるかどうかは、リーダーが直面する具体的な状況に依存するというものです。

先駆的研究:Burns and Stalker (1961)
イギリスの製造業に関する研究で、異なる産業における市場や技術環境の変動を考慮し、組織構造を分析しました。その結果、変動が激しい電機産業では有機的管理システムが、高業績を上げるのに適しており、逆に安定した環境のレーヨン産業では機械的管理システムが高業績を上げるのに適していることが示されました。BurnsとStalkerは、環境要因に応じて適切な管理システムを選択することが重要であるというコンテンジェンシー理論の古典的命題を提唱しました。

Fiedlerのコンテンジェンシーモデル
エフレム・フィードラー(Fred Fiedler)は、リーダーシップの効果を説明するために、リーダーシップスタイルをタスク指向(Task-oriented)と関係指向(Relationship-oriented)に分けました。

  • タスク指向リーダー:主に仕事の完了や目標達成に焦点を当てます。明確な指示を出し、成果を重視します。
  • 関係指向リーダー:主に部下との良好な関係を構築することに焦点を当てます。メンバーの満足度やチームの調和を重視します。

フィードラーは、リーダーシップの効果に影響を与える状況変数を以下の3つに分類しました。

  1. リーダーとメンバーの関係
    リーダーとメンバーの間の信頼関係や良好な関係がリーダーシップに影響を与えます。メンバーが忠実で友好的で協力的かどうかがポイントです。
  2. タスク構造
    タスクが明確であり、構造化されているかどうか。明確なタスクは管理しやすく、リーダーシップの効果を高めます。タスクの実行に必要な標準的な作業手順や、成果を測定する客観的な指標があるかどうかが重要です。
  3. リーダーの地位権力(ポジションパワー)
    リーダーが持つ公式な権限や影響力です。高い地位権力はリーダーシップを強化します。リーダーがメンバーの働きぶりを評価し、報酬や罰を管理できるかどうかがポイントです。

フィードラーのモデルでは、これらの状況変数の組み合わせに応じて、どのリーダーシップスタイルが最も効果的かを決めます。リーダーシップスタイルを評価するために、フィードラーは「最も嫌いな同僚(LPC)スケール」を使用します。このスケールでは、リーダーが最も一緒に働きたくない同僚についての評価を行い、その評価が高ければ関係指向、低ければタスク指向とされます。

参考文献

コンテンジェンシー理論の再検討:https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/24/1/24_20220630-6/_article/-char/ja

コンテンジェンシー理論の再吟味(神戸大学学術成果リポジトリ):https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/00172476/00172476.pdf

 

シチュエーショナル・リーダーシップ理論(Situational Leadership Theory)

ポール・ハーシー(Paul Hersey)氏とケン・ブランチャード(Ken Blanchard)氏が提唱した理論で、リーダーシップスタイルを状況に応じて柔軟に変更する必要があると主張しています。この理論では、部下の成熟度に基づいてリーダーシップスタイルを調整します。リーダーシップの一貫性や普遍性を否定し、状況に応じた柔軟なアプローチの重要性を強調しています。

部下の成熟度
部下の成熟度は、能力(Competence)と意欲(Commitment)の2つの要素で評価されます。

  • 能力: 仕事を遂行するためのスキルや知識。
  • 意欲: 仕事に対するモチベーションや責任感。

リーダーシップスタイル

  1. 指示型(Telling)
    能力も意欲も低い部下に対して、具体的な指示を与えるスタイルです。
  2. 説得型(Selling)
    能力が低いが意欲の高い部下に対して、説明や説得を通じて指導するスタイルです。
  3. 参加型(Participating)
    能力は高いが意欲が低い部下に対して、参加を促しながらサポートを行うスタイルです。
  4. 委任型(Delegating)
    能力も意欲も高い部下に対して、権限を委譲し、自律的に行動させるスタイルです。

 

パス・ゴール理論(Path-Goal Theory)

パス・ゴール理論は、リーダーが部下の目標達成を支援するためにどのような行動を取るべきかを探る理論です。この理論は、エバンス博士(Martin G. Evans)によって1970年に提唱され、その後1971年にロバート・ハウス(Robert House)によってさらに発展されました。この理論では、リーダーがフォロワー(部下)の目標達成を支援するために、状況に応じたリーダーシップ行動を取ることが重視されます

具体的には、リーダーはフォロワーの仕事の道筋を明確にし、障害を取り除き、個人的な満足感を高めるためのサポートを提供します。

パス・ゴール理論の基本概念

  1. 目標設定
    リーダーは部下の目標を明確にし、その達成のための道筋を示します。
  2. 障害の除去
    リーダーは部下が目標を達成する際に直面する障害や困難を取り除く役割を果たします。
  3. サポート
    リーダーは部下が目標に向かって進む際に必要な支援を提供します。

リーダーシップスタイル

パス・ゴール理論では、リーダーが状況に応じて以下の4つのリーダーシップスタイルを使い分けることを提唱しています。

  1. 指導的リーダーシップ(Directive Leadership)
    リーダーはメンバーに期待を伝え、具体的な指示を出し、規則と手続きに従うよう要請します。目標や手順が不明確な場合に有効です。
  2. 支援型リーダーシップ(Supportive Leadership)
    リーダーは部下の感情的なニーズに配慮し、幸福を考慮し、友好的で親しみやすい態度を取ります。作業環境の雰囲気が悪い場合や、部下が自己評価を低くしている場合に有効です。
  3. 参加型リーダーシップ(Participative Leadership)
    リーダーは部下の意見や提案を積極的に求め、意思決定に参加させます。部下が自分の意見を持ち、リーダーシップに対して高い参加意欲を示す場合に有効です。
  4. 達成指向型リーダーシップ(Achievement-Oriented Leadership)
    リーダーは高い目標を設定し、部下に挑戦を促し、パフォーマンスの向上を追求します。部下が自己達成感を求め、高い能力を持っている場合に有効です。

状況変数

パス・ゴール理論では、リーダーの効果的な行動は状況によって異なります。重要な状況変数として以下が挙げられます。

  1. 部下の特性
    部下の能力や経験、モチベーションのレベルなどが影響します。
  2. タスクの特性
    タスクの複雑さや明確さ、ルーティン性などがリーダーの行動に影響を与えます。
  3. 作業環境
    組織の構造や文化、チームのダイナミクスがリーダーシップの効果に影響します。

リーダーの行動が状況変数に対して過剰であるなど、部下の特性と調和しないときにはリーダーシップが発揮されず、調和するときにリーダーシップが効果を発揮します。リーダーは効果を高めるために、状況に応じて柔軟に行動を変える必要があるのです。

 

LMX理論(Leader-Member Exchange Theory、リーダー・メンバー交換理論)

LMX理論は、リーダーシップの質がリーダーと部下の個別の関係に基づいて決まるとする理論です。この理論は、1970年代にダンスロ(Dansereau)、グレーン(Graen)、ハガー(Haga)によって提唱されました。この理論は、リーダーとフォロワーの相互作用が人間関係の成熟をもたらし、より高いレベルの問題解決を生むという考え方に基づいています。

LMX理論では、リーダーと部下の関係が イングループ(In-group)とアウトグループ(Out-group)に分類されます。

  • イングループ: リーダーと部下が高いレベルの信頼、尊敬、義務感を共有する関係です。イングループのメンバーは、リーダーからのサポートやリソース、発展の機会を多く受ける傾向があります。その結果、パフォーマンスや満足度が高くなることが多いです。
  • アウトグループ: リーダーと部下が基本的な雇用契約に基づいた形式的な関係を持つグループです。アウトグループのメンバーは、リーダーからのサポートやリソースが限られており、発展の機会も少ない傾向にあります。その結果、パフォーマンスや満足度が低くなることが多いです。

フォロワーシップについて

LMX理論に関連するフォロワーシップについても補足します。フォロワーシップは、リーダーとの関係においてフォロワーが果たす役割や行動に焦点を当てた概念です。Carsten Uhl-Bien、West Patera、McGregor(2010)の研究によれば、フォロワーシップには以下の2つのタイプがあります。

  • 受動的フォロワーシップ
    組織の秩序を重視し、リーダーの指示に従うことを優先します。
  • 積極的フォロワーシップ
    機会があれば自らの意見を表明し、積極的に関与します。

フォロワーシップには以下の2つの要素が含まれます:

  1. 批判:フォロワーはリーダーに対して意見を述べることができます。
  2. 支援:フォロワーは組織の目標達成に向けて貢献し続けます。

フォロワーシップはリーダーとの関係性に基づいていますが、批判と支援のバランスを取ることが重要です。これにより、リーダーシップの質を高め、組織全体のパフォーマンス向上に寄与することができます。

LMX理論のプロセス

LMX理論では、リーダーと部下の関係が次のようなプロセスを経て発展します。

  1. 役割の取得(Role-Taking):
    初期段階で、リーダーと部下は互いの動機や態度、交換される可能性のある資源を評価し、相互の役割の期待を確立します。リーダーが新しい部下にタスクや役割を与え、そのパフォーマンスを観察します。
  2. 役割の作成(Role-Making):
    関係構築段階で、リーダーと部下が相互の期待や役割を交渉し、関係を形成していきます。交換の取り決めが磨かれ、相互の信頼、忠誠心、尊敬が育まれます。この段階で、イングループまたはアウトグループの関係が確立されます。
  3. 役割の固定(Role-Routinization):
    関係が成熟し、リーダーと部下の関係が安定した段階です。役割が日常の業務に組み込まれ、自己利益に基づく交換が組織のミッションと目標に対するコミットメントに変わります。イングループのメンバーはより多くの責任や挑戦的なタスクを任される一方で、アウトグループのメンバーは定型的なタスクに従事します。

LMX理論の意義

LMX理論は、リーダーシップの質がすべての部下に対して一律ではなく、個々のリーダーと部下の関係に依存することを示しています。リーダーは部下それぞれに応じたリーダーシップを提供することが求められます。この理論には以下の意義があります。

  1. 個別対応の重要性
    リーダーは部下のニーズや特性に応じたリーダーシップを提供することが求められます。イングループとアウトグループのメンバーに対して異なるアプローチを取ることで、組織全体のパフォーマンスを最適化できます。
  2. 組織の公平性と倫理
    イングループとアウトグループの存在は、公平性や倫理的な問題を引き起こす可能性があります。リーダーはすべての部下に対して公正かつ透明な対応を心掛ける必要があります。
  3. リーダーシップ開発
    LMX理論は、リーダーシップ開発において、部下との関係構築スキルを重視することの重要性を示しています。リーダーが部下との良好な関係を築くための具体的な方法を学ぶことで、組織全体の効果性を向上させることができます。

LMX理論の実務的な捕捉

LMX理論を用いる場合、イングループとアウトグループの区分は明示的に行われないことが多いです。そのため、メンバー自身がどのグループに属しているかを明確に認識していないことがあり、不満や誤解を生じる可能性があります。リーダーは、メンバーとの良好な関係を築くことが効果的なリーダーシップの発揮につながるため、この理論を活用してメンバーを管理する際には注意が必要です。

 

サーバントリーダーシップ(Servant Leadership)

この理論は、1970年代にロバート・K・グリーンリーフ(Robert K. Greenleaf)によって提唱された。

サーバントリーダーシップは、フォロワーのニーズと志向を理解し、彼らの社会的健康に配慮し、知的好奇心を刺激され、責任を果たす意欲を高めることを重視するリーダーシップスタイルである。また、組織の財政的な利益にかかわらず、善と正義を支持する倫理的なリーダーシップの理論である。フォロワーに対しては、意義のある仕事を提供することが顧客に品質の高い製品やサービスを提供することと同じくらい重要だと考える。さらに、権力を支配のために使用するのではなく、フォロワーを力づけるために影響力を発揮し、完全に誠実で透明性を保ちながら、自身の行動とフォロワーの価値観と一致させることで信頼を示す行動が求められる。

サーバントリーダーシップの基本原則は以下と定義されている。

 

サーバントリーダーシップの基本原則

  1. 傾聴(Listening)
    リーダーは部下の意見や感情を注意深く聞き取る。積極的な傾聴(Active Listening)を通じて、部下のニーズや問題を理解する。
  2. 共感(Empathy)
    リーダーは部下の立場に立って考え、感情や視点を理解することを試みる。共感は信頼関係を築く上で重要な要素である。
  3. 癒し(Healing)
    リーダーは部下の感情的な傷や問題を癒すために努力する。リーダー自身も自己の成長と癒しを追求する。
  4. 気づき(Awareness)
    リーダーは自己認識と状況認識を高め、リーダーシップ行動の影響を理解する。
  5. 説得(Persuasion)
    リーダーは権力や地位に頼らず、説得力と対話を通じて部下を導く。協力と理解を重視する。
  6. 概念化(Conceptualization)
    リーダーは現実的な問題だけでなく、未来のビジョンや戦略についても考える。大局的な視点を持つことが重要である。
  7. 先見性(Foresight)
    リーダーは過去の経験と現在の状況を基に、未来を予測し、部下と組織を導きます。
  8. スチュワードシップ(Stewardship)
    リーダーは自分の役割を「管理人」として捉え、組織のリソースについて責任を持って管理する。
  9. 成長へのコミットメント(Commitment to the Growth of People)
    リーダーは部下の成長と発展を支援し、彼らのスキルや能力を最大限に引き出す。
  10. コミュニティづくり(Building Community)
    リーダーは職場を一つのコミュニティとして捉え、メンバー間の絆と共同体意識を育む。

 

サーバントリーダーシップの実践

サーバントリーダーシップを実践するためには、リーダーは以下の行動を取ることが求められる。

  1. 部下のニーズを優先する:部下が仕事を遂行するために必要なリソースやサポートを提供する
  2. 自己犠牲的な行動を取る:リーダーは自分の利益を後回しにし、部下の利益を優先する
  3. オープンなコミュニケーション:透明性の高いコミュニケーションを促進し、部下との信頼関係を築く
  4. フィードバックを重視する:部下からのフィードバックを積極的に受け入れ、それを基に自分の行動を改善する。
  5. 教育と訓練の機会を提供する:部下が成長するための教育や訓練の機会を提供し、キャリアの発展を支援する

 

サーバントリーダーシップのメリット

  1. 高いモチベーションと満足度:部下は自分が大切にされていると感じることで、仕事に対するモチベーションや満足度が向上する。
  2. 強固な信頼関係

リーダーと部下の間に強い信頼関係が築かれ、チームの結束力が高まる。

  1. 創造性とイノベーションの促進
    安心感のある環境では、部下は自由にアイデアを出し、創造性やイノベーションが促進される。
  2. 組織の持続可能性
    部下の成長と発展を重視することで、組織の長期的な持続可能性が確保される。

 

サーバントリーダーシップの実務的な捕捉

サーバントリーダーシップは、リーダーが部下の成長と福利を最優先に考えるリーダーシップスタイルであるため、リーダーと部下の間に強い信頼関係を築き、組織全体のパフォーマンスを向上させることができる。自己犠牲的にメンバーを気に掛け、時間を割く必要があるため、メンバーの育成とは別のタスクを抱える場合、そのバランスは考慮する必要がある。

 

リーダーシップの複数因子理論(Multi-Factor Leadership Theory)

リーダーシップの複数因子理論は、リーダーシップの多様な側面を包括的に捉えるための理論です。この理論は、リーダーシップの効果が複数の状況要因に依存することを提唱しており、状況変数、リーダーの行動、集団プロセス、パフォーマンス基準などの多様な要素が相互に関連し合うことを強調しています。

複数因子理論は有用である一方で、具体的な提案や予測が不足しているという批判もあります。たとえば、どのリーダー行動がどの状況で最も効果的かについての明確な指針がないことがその一因とされています。

複数因子理論の意義

複数因子理論は、リーダーシップを単一のスタイルではなく、多面的なものとして捉えることの重要性を強調しています。リーダーは、リーダーシップの多様な側面を理解することで、リーダーシップの効果を高めるための幅広いアプローチを取ることができます。

たとえば、状況に応じて変革型リーダーシップと交換型リーダーシップを使い分けることで、効果的にチームを導くことが考えられます。部下のニーズや組織の目標に応じて適切なリーダーシップスタイルを採用することで、組織全体のパフォーマンスを最大化することが可能です。

代表的なリーダーシップスタイル

この理論の代表的なものとして、バーナード・バス(Bernard Bass)氏が提唱した変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)と交換型リーダーシップ(Transactional Leadership)があります。

変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)

変革型リーダーシップは、リーダーが部下に対して高い期待を持ち、彼らの意識や価値観を変えることを目指すスタイルです。以下の4つの要素(4I)が特徴です。

  1. 理想化された影響(Idealized Influence)
    リーダーは道徳的な模範となり、部下から尊敬と信頼を得ます。高い倫理基準を持ち、リーダーとしての一貫性と誠実さを示します。
  2. 感動的な動機付け(Inspirational Motivation)
    リーダーは魅力的なビジョンや目標を提示し、部下を鼓舞します。部下に対して情熱と希望を持たせ、やる気を引き出します。
  3. 知的刺激(Intellectual Stimulation)
    リーダーは部下に対して新しい視点や創造的な解決策を促します。問題解決において革新的なアイデアやアプローチを奨励します。
  4. 個別的配慮(Individualized Consideration)
    リーダーは部下の個々のニーズや成長に配慮し、パーソナライズされたサポートを提供します。部下一人ひとりの成長と発展を重視し、メンタリングやコーチングを行います。

交換型リーダーシップ(Transactional Leadership)

交換型リーダーシップは、リーダーと部下の間で報酬と罰を基にした取引を行うスタイルです。以下の3つの要素が特徴です。

  1. 条件付き報酬(Contingent Reward)
    リーダーは明確な目標を設定し、その達成に対して報酬を約束します。期待される成果に対して具体的な報酬や認識を提供します。
  2. 管理的例外(アクティブ)(Management by Exception – Active)
    リーダーは部下のパフォーマンスを監視し、問題が発生した際には即座に介入します。定期的な監視とフィードバックを通じて、パフォーマンスの改善を図ります。
  3. 管理的例外(パッシブ)(Management by Exception – Passive)
    リーダーは部下のパフォーマンスに問題が発生するまで介入しません。問題が顕在化した時点でのみ、介入や修正措置を行います。

リーダーシップの複数因子理論の実務的な捕捉

リーダーシップの複数因子理論は、リーダーシップの多様な側面を包括的に捉える理論であり、変革型リーダーシップと交換型リーダーシップの両方を含んでいます。この理論は、リーダーが状況に応じて柔軟にアプローチを変えることで、組織やチームの成功を促進することを目指しています。しかし、現実には変革型リーダーシップ、あるいは交換型リーダーシップを主とする場合もあります。

 

オーセンティックリーダーシップ(Authentic Leadership)

オーセンティックリーダーシップは、1980年代にリーダーシップ研究の一環として初めて言及されましたが、2000年代初頭にその概念が広く知られるようになりました。特に、Medtronicの元CEOであるビル・ジョージ(Bill George)氏が2003年に著書『Authentic Leadership』を出版して以来、多くの研究者や実務家がこの概念に注目しています。

オーセンティックリーダーシップは、リーダーが自己の倫理的な価値観に基づいて行動し、部下や周囲との信頼関係を築くリーダーシップスタイルです。オーセンティックという言葉は、ギリシャ語の「authento」に由来し、自己の権威で行動するという意味を持ちます。このリーダーシップスタイルは、リーダーが自己の内面と外部の行動が一致していることを重要視します。

オーセンティックリーダーシップの基本要素

  1. 自己認識(Self-Awareness)
    リーダーは自己の強みや弱み、価値観、感情を深く理解します。自己認識を通じて、リーダーは自己成長を促進し、より効果的なリーダーシップを発揮します。
  2. 内面的な道徳的視点(Internalized Moral Perspective)
    リーダーは外部からのプレッシャーに影響されることなく、自己の倫理的価値観や信念に基づいて一貫した行動を取ります。
  3. バランスの取れた情報処理(Balanced Processing)
    リーダーは多様な視点や意見を公正に評価し、偏りなく意思決定を行います。フィードバックを積極的に受け入れ、慎重に判断を下します。
  4. 関係の透明性(Relational Transparency)
    リーダーはオープンで正直なコミュニケーションを行い、自分の考えや感情を率直に共有します。信頼と誠実さを基盤にした関係を築きます。

オーセンティックリーダーシップのメリット

オーセンティックリーダーシップを実践するリーダーは、自己の強みや弱みを理解し、自分らしさを持って行動するため、チームとの信頼関係が深まります。この信頼関係により、チームメンバーは自由に意見を述べることができ、革新的なアイデアが生まれやすくなります。さらに、リーダーが透明性を持ってフィードバックを行い、自分の過ちを認めることで、メンバーも誠実に行動しやすくなり、健全な職場環境が形成されます。

オーセンティックリーダーシップの実務的な捕捉

オーセンティックリーダーシップは、リーダーが自己の価値観や信念に忠実であり、透明性と誠実さを持って部下を導くリーダーシップスタイルです。このスタイルは、企業文化や組織文化、業界の文化にも影響されることがあります。リーダーがオーセンティックリーダーシップを発揮するためには、自己認識、内面的な道徳的視点、バランスの取れた情報処理、関係の透明性を実践することが重要ですが、状況に応じてそれらの要素を実行するための障害がある場合、その状況要因に対処する能力も求められます。

 

インクルーシブリーダーシップ(Inclusive Leadership)

インクルーシブリーダーシップ(IL)は、組織内の多様性(ダイバーシティ)を受け入れ、各メンバーの能力を最大限に引き出し、共通の目標に向かって協力するリーダーシップスタイルです。このアプローチは、異なる文化的背景や経験、思考を持つ人々を包括し、全員が意見やアイデアを自由に表現できる環境を作り出すことを目指します。変革型リーダーシップとは異なり、インクルーシブリーダーシップは、メンバー個々人の貢献と成長を重視します。

インクルーシブリーダーシップに関する重要な論文として、Randel et al.(2018)が挙げられます。比較的新しいリーダーシップの理論であり、日本では立教大学の中原ゼミで研究されています。

インクルーシブリーダーシップの重要な要素

  1. 多様性の活用
    異なる背景や視点を持つメンバーを含むことで、革新的なアイデアや解決策が生まれやすい環境を作ります。多様性はイノベーションの源泉となり、競争力を高める効果が期待できます。
  2. 組織の結束強化
    メンバー全員の声を尊重し、価値あるものとして取り入れることで、組織の結束感やモチベーションを高めます。
  3. 人材の確保と育成
    多様な文化的背景を持つ人材を引き寄せ、長期的に組織に留まらせます。これにより、組織は持続的な成長やイノベーションを達成しやすくなります。
  4. 持続的成長
    多様性を受け入れ、うまく活用することで、組織全体のパフォーマンスが向上し、持続的な成長が期待できます。

インクルーシブリーダーシップを実践するためのステップ

  1. 自己認識と個人的成長
    リーダーは自身の偏見や価値観を理解し、それを踏まえた行動を取ることが重要です。積極的なフィードバックと自己反省を通じて個人成長を図ります。
  2. チームと組織の変革
    多様性と包摂性を組織文化の核として組み込み、会議やプロジェクトで多様な意見を積極的に取り入れる姿勢が不可欠です。
  3. コミュニケーションの促進
    異なる背景を持つメンバー間のコミュニケーションを円滑にすることで、組織全体の包摂性を強化します。

インクルーシブリーダーシップの実務的な捕捉

インクルーシブリーダーシップは、多様性のあるチームや組織を率いる上で特に重要です。リーダーは、メンバーの多様な背景や視点を尊重し、それらを効果的に活用することで、チーム全体のパフォーマンスを最適化します。このリーダーシップスタイルを実践するためには、リーダー自身の成長と、組織内の多様な意見や価値観を受け入れる姿勢が求められます。

 

リーダーシップ能力の開発に用いられる3つの手法

リーダーシップ能力の開発にはさまざまな手法がありますが、ここでは特に効果的とされる3つの手法について説明します。

  1. 行動ロールモデリング

行動ロールモデリングは、デモンストレーションとロールプレイングを組み合わせたトレーニング手法です。受講者は、まず特定の対人問題や業務上のシチュエーションにおける模範的な行動を観察します。その後、ロールプレイングを通じて、実際にその行動を実践し、フィードバックを受けながら学びます。

例えば、効果的なフィードバックの提供方法や顧客対応など、対人スキルの向上を目的としたトレーニングに活用されます。受講者は、模範となる行動を目の当たりにすることで、自分自身の行動に取り入れるべき要素を具体的に学ぶことができます。

  1. ケースディスカッション

ケースディスカッションは、実際のビジネスシナリオや過去の事例を基にした議論を通じて、問題解決能力や意思決定能力を向上させる手法です。この手法は、主にリーダーシップやマネジメントのトレーニングに使用され、現実的な状況を想定しながら、理論的な知識を実践に適用する方法を学びます。

例えば、特定のビジネス課題に対する複数の解決策をチームで討議し、それぞれの利点や課題を評価することで、より良い意思決定を行うためのスキルを磨くことができます。

  1. ビジネスゲームとシミュレーション

ビジネスゲームやシミュレーションは、仮想のビジネス環境における意思決定を通じて、リーダーシップやチームワークのスキルを向上させる手法です。この手法では、参加者が企業の経営や特定の業務プロセスを模倣した状況下で、現実的な問題に対処し、結果に基づいて評価されます。

例えば、マーケティング戦略や財務管理を学ぶためのシミュレーションでは、実際の企業運営に近い環境で参加者が意思決定を行い、その結果が組織全体にどのような影響を与えるかを体験します。これにより、リーダーとしての判断力や全体を見渡す視野が鍛えられます。例えば、NASAのコンセンサスゲームでは、チームで合意形成を図りながら意思決定を行う過程で、ビジネス感覚やチームワークを養うことができる。他にも、経営を模したビズストームというボードゲーム型研修では、マーケティングや営業戦略を実践的に学ぶことができる。

 

さいごに

ビジネススクールの講義で学んだ内容に加えて、自分で調べた内容を含めると、資料の3/4以上がリーダーシップの研究・理論に関する詳細となっています。ここまで読み進められた方は、リーダーシップの研究の歴史の深さや理論の複雑さに驚かれたのではないでしょうか。冒頭で触れたように、組織管理者やマネージャーが持つリーダーシップの考え方は、きっと間違いではなく、これらの研究のどこかに裏付けがあるはずです。重要なのは、それが組織のパフォーマンスを最大化するための手段になっているかどうかです。

ここで、もう一度、マネジメントとリーダーシップの定義について記載いたします。

 

マネジメント:人を通じて、そして人とともに物事を効率的になし遂げる役割。
計画する、リードする、組織化する、コントロールすることが含まれます。

リーダーシップ:職場やチームの目標を達成させるために、他のメンバーに影響を与えること。

 

会社、事業部、部門、部、課、プロジェクトなど、様々な組織体制が存在する中で、メンバーの価値観やニーズを捉えながら、自分自身のリーダーシップの特徴を発揮して、組織のパフォーマンスを最大化させることが重要です。一方で、マネージャーやリーダーだけの行動に任せるのではなく、フォロワーであるメンバー自身も、現在在籍している組織のリーダーやマネージャーがどのようなタイプかを想定して、組織のパフォーマンスを最大化させるフォロワーとしての行動を取ることも重要であると考えます。

 

研修を管轄する人事担当者であれば「すべての研修がすべての受講者に満足してもらえるように設計したい」と考えるはずですが、現実のリーダーシップ能力開発においては、組織環境に影響されるため、すべての人に等しく満足できる研修を設計することはほぼ不可能です。受講者に何らかの気づきを与え、受講後に行動の変容を促すことができれば、それで十分と言えるでしょう。一方で、受講者に気づきを与えるためには、人事担当者としての専門性を受講者に示す必要があります。そのため、リーダーシップ論の背景など大枠を把握し、専門的な質問に答えられるようにしておくべきです。また、人事担当者も組織の一員であるため、少なくとも自分自身のリーダーシップのタイプを把握し、所属する組織のパフォーマンス最大化に貢献してもらいたいと思います。誰に対しても、リーダーシップ能力の開発は必要不可欠です。